摂取されたβグルカンは、善玉菌によって酪酸となり、“間接的”に免疫系を調整する。
さらに、一部は腸管腔のパイエル板から取り込まれ、腸管に集積した樹状細胞などの自然免疫系細胞を“直接的”に賦活化し、強力な抗腫瘍活性や抗ウイルス活性を誘導する!
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βグルカンとは何か?
βグルカンとは、グルコース(ブドウ糖)が何百個と結合して連なった炭化水素です。
ブドウ糖が連なった物質というと? そう、デンプンですね。
デンプンとβグルカンとでは、グルコースとグルコースをつなげる結合様式が異なっていますので、一見似ていますが別物です。
デンプンでは、そのグルコース同士の結合様式は「α結合」と呼ばれ、βグルカンでは「β結合」です。
だから「βグルカン」なのです。そうすると、デンプンは「αグルカン」とも呼べるわけですね。
ご存じの通り、デンプンは消化酵素アミラーゼで消化されて、最終的に吸収されたグルコースは貴重なエネルギー源となります。
一方、βグルカンは消化・吸収されません。似ているのになぜ?
なぜなら、我々ヒトはβ結合を切断できる消化酵素を持っていないから。
そのために、βグルカンは食物繊維と呼ばれるわけです。
βグルカンは一部の植物や菌類の細胞壁に多く含まれます。
キノコ類に多く含まれますが、特に有名なのは霊芝ですね。
霊芝の健康効果は、その実、βグルカンの効果なわけです。
βグルカンはどれも同じではありません。
由来によって構造が異なり、我々の体の中での機能や、免疫系の活性化の強さに違いがあります。
詳細な説明は割愛しますが、もっとも健康効果が高いのは「1,3-1,6結合型」。
他に「1,3-1,4結合型」とかもあるのですが、私がお薦めするのは「1,3-1,6結合型」で、由来は黒酵母(アウレオバシジウム)です。
上の画像は「β-グルカン協議会」のHPから転載させていただきました(とてもいい図だったものですから、、、)
そう、上の図では左下のもので、主鎖が1,3結合で、分岐鎖が1,6結合の「β-1,3-1,6-グルカン(酵母、カビ)」がそれです。
アウレオ βグルカン EX (ベータグルカン EX) 15ml×30袋【正規販売店】βグルカンの科学的エビデンスはどのくらいあるの? Let’s調べてみよう
“PubMed”(パブメド)とは、米国立医学図書館(National Library of Medicine;NLM)が運用する無料の論文検索エンジンです。
PubMedがアクセスするデータベース”MEDLINE”には、医学・薬学・生命科学分野の世界中の論文が網羅されており、我々生物系が英語の論文を探すならPubMedひとつで事足りるので、とっても重宝します。
ほとんどすべての論文の要約は読めますし、スポンサーが付いてる学術誌(以下「ジャーナル」と言います)の論文だと無料で全文閲覧、PDFファイルのダウンロードもできます。
ほんと、フリーアクセスの論文はありがたいです。
使い方は至極簡単。検索キーワードを入力して、エンターキーを叩くだけ。
複数のワードの間にスペースを入れると、「&検索」になります。至って普通ですよね。
では、実際に検索してみましょう!
βグルカンの科学的エビデンスの質と量
(以下のPubMedによるヒット件数は2024年3月10日現在のものです)
βグルカンの総論文数
まず「beta-glucan」と入力してエンター。
ヒットはなんと19,791件!
表示方法は「best match」(合致度の高い順)で、最上位に表示された論文のタイトルは「食べ物中のβグルカンの健康上のベネフィット」。2021年の比較的新しい論文です。
βグルカンと免疫
βグルカンは免疫系を賦活化(ふかつか)する!
本当にそうなのか、どのくらい研究されているのか、さっそく見てみましょう。
「beta-glucan immune(免疫)」で検索。
ヒットは4,838件も!
表示最上位の論文のタイトルは「βグルカンは自然免疫系によって認識される」
よし、よし! とてもいい感じ💛
2009年の発表と比較的古いですが、私はこの論文をかなり読み込みました。
口から摂取され、腸管のパイエル板から免疫細胞に取り込まれたβグルカンがどのようになるのか?
どのような仕組みで自然免疫系を賦活化するのか?
本論文には、分子および細胞レベルのメカニズムについて、かなり詳細に書かれています。
特に、「1,3-1,6分岐型」について書かれていますね。まさに、黒酵母のものがそれです。
腸に達したβグルカンがどのようにして免疫系を賦活化するのか?
この当時すでに、これだけのことが分かっていたのですね。
βグルカンの研究―いつから?
いったい、いつからβグルカンと免疫の関係の研究が行われてきたのかと思い、この4,830件につき表示を「発表日順」に変更し、最古の論文を確認しました。
発表年は1956年。
酵母の細胞壁の抽出物である「ザイモサン」の研究に関するもののようです。
ザイモサンが最初に報告されたのが1941年。
そして、ザイモサンに多量のβグルカンが含まれていることが分かったのが1950年代後半のこと。
さらに、ザイモサンの生理活性の本体物質がβグルカンであることが明らかにされたのが1961年のことだとか。(ウィキペディアによる)
へぇ~~、今の今まで知らなかったなぁ。
βグルカンと悪性腫瘍
βグルカンは様々な病気に効く!
えっ? 「○○に効く」なんてものは絶対に信じるなっつったのはどこの誰だっけ?――βグルカンだけは別ですよ!βグルカンだけは。
ということで、βグルカンと病気の関係についての論文はどのくらいあるのか?
βグルカンの病気に対する効果に関して、もっとも盛んに研究されているのは悪性腫瘍(がん)です。
そこで、「beta-glucan cancer(がん)」で叩いてみましょう。
1,875件もありました。
βグルカンの抗腫瘍活性
次に、もっと直接的に、βグルカンの抗腫瘍効果について、どのくらいの論文があるのか、「beta-glucan anti-tumor(抗腫瘍)」で叩いてみましょう。
ヒット件数はぐっと減って191件。こんなに少ないんだ。ちょと以外。
しか~し、驚いたことに、な、な、なんと、最上位表示は2020年の”Cell”の論文ではないか!
Cellはその名のごとく、こと細胞生物学の分野においては、かのNatureやScienceよりも掲載難易度が高い超一流ジャーナルなのですよっと!!(おっと、興奮してしまいました)
非常に高いインパクトが認められた論文でなきゃ、なかなかCellには載らない!
論文タイトルは、直訳すると「顆粒球造血の自然免疫を訓練すると抗腫瘍活性が促進する」
なんのこっちゃ? 流石はCellやな。なんのこっちゃよう分らんわ(笑)
βグルカンと腸内フローラ
βグルカンは腸に達してこそ効果がある。
「beta-glucan microbiome(細菌叢)」で叩いてみましょう。
以外にも、516件と少ないですね。
そういえば、βグルカンは腸内細菌のエサになるだけではなく、直接的に腸管免疫を活性化することが分かっている数少ない食物繊維ですから、腸内細菌との関わりについての研究は少ないのかもしれません。
βグルカンと関節リウマチ
がん以外の病気に対する効果についてはどうなのかな?
「beta-glucan rheumatoid arthritis(関節リウマチ)」で叩いてみましょう。
ヒット件数は、がんの十分の一にも満たない150件。
免疫を活性化するβグルカンと関節リウマチが、なんの関係があるのか?
関節リウマチは、人類最多の自己免疫疾患です。
であるからには、しっかり免疫が関係しています。
えっ? でも、βグルカンは免疫を賦活化するのでしょ? 免疫を強化したら、余計に自己免疫疾患が悪化するのでは?
そうなんです。そこがβグルカンの不思議なところです。
関節リウマチでは、炎症性物質であるTNFαやインターロイキン6を抑制すると、良くなることが分かっています。
関節リウマチの治療において、炎症を鎮めることは非常に重要です。
そこでβグルカンですが、いくつかの動物実験において、炎症を抑制する効果のあることが報告されているのです。
不思議なことにβグルカンは、免疫を活性化する一方で、免疫を抑えるという真逆のことをしているというのです。
βグルカンと免疫抑制効果
βグルカンは自然免疫系を賦活化して高い抗腫瘍活性を発揮する。
一方で、余剰な免疫反応を抑制する制御性T細胞を誘導して、アレルギー性疾患や自己免疫疾患、あらゆる病気の原因となり得る慢性炎症を抑えているのかもしれない。
ブレーキ踏みながらアクセルも吹かせるなんて、まるでドライビングの足技“ヒール&トウ”みたいですね(漫画「サーキットの狼」若い人は知らないですよね~)
そこで、βグルカンが免疫を抑える方の研究がどのくらいあるのか?
「beta-glucan regulatory t cells(制御性T細胞)」で叩いてみると、これはさすがに少なく、71件でしたわ。
βグルカンの臨床試験
ヒトでの研究、つまり臨床試験はどのくらいあるのかな?
「beta-glucan clinical trial(臨床試験)」で叩いてみると614件。
結構あるもんですね~。
さらに「がん」に関する臨床試験はどのくらいか?
「cancer」を追加して叩いてみると123件も。
臨床試験の約2割が、ガンなのですね。
有名なレスベラトロールと比較してみよう
ここまで、βグルカンに関する科学的エビデンス、つまり研究論文がどのくらいあるのかを調べてきました。
でも、これって、本当に機能性の食品成分としては多い方なの?
そうですよね。その疑問はあります。
βグルカン以外の食品成分で、かなり盛んに研究されていて、一般の認知度の高いものと言えば、レスベラトロールが挙げられるのではないでしょうか?
ポリフェノールの一種と言えば、お分かりですよね。
その機能性は、抗酸化作用(実は私、あまりよく知らない、、、)
βグルカンとは、健康に与えるメカニズムは異なるのですが、盛んに研究されていて、おそらく研究論文はかなり多いのではないでしょうか。
そこでPubMedで、βグルカンと同じ組み合わせワードで検索してみました。
その結果は下のグラフの通り。
総論文数はβグルカンに匹敵する数ですね。
βグルカンは、免疫系と密接な関係にありますから、免疫とのかけ合わせ検索で多いのは当然です。
以外にも、がんとのかけ合わせで、レスベラトロールに大きく水をあけられたのには驚きました。
抗腫瘍活性についても、βグルカンよりも多いですね。
レスベラトロール、侮るべからず!
関節リウマチ、腸内細菌、制御性T細胞、そして臨床試験に係る論文数は、いずれもβグルカンの方がわずかに多いですが、どちらも遜色ないと言えるでしょう。
健康維持における免疫の重要性
今や、我々が本来もつ免疫力でがん細胞を駆逐できることが分かってきました。
逆に、過剰な免疫反応を制御して、慢性炎症を抑制できれば、多くの慢性疾患の改善ができることも期待されています。
今や、ほとんどすべての病気が、免疫と何らかの関係を有しています。
それほどまでに免疫の制御は、健康を維持する上で重要です。
今回調べてみて、βグルカンの研究が、かのレスベラトロールに匹敵するほど盛んに行われてきたことが分かりました。
しかし、βグルカンがレスベラトロールと違うところは、健康に寄与するメカニズムが免疫系の制御にあるところです。
次回以降、βグルカンがどのようにして、免疫に関与しているのかについて、優しく分かりやすくお話してまいりましょう。
今回も最後までお読み下さり、ありがとう御座います。
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是非、お読みになったご意見やご感想、お叱りをコメントでお寄せ下さい。
大変励みになります。
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